HoT-JeTリレー:北海道・東北の登録日本語教員養成機関のご紹介(山形大学)
「HoT-JeTリレー」は、北海道・東北の教員養成の現場から教育現場までさまざまな現場を紹介してもらう企画です。今回は、北海道・東北の登録日本語教員養成機関のみなさんに、その課程の特色や工夫についてご紹介いただきます。この記事が、養成機関同士の知見を深める場となり、また、日本語教育の未来を担う人材の育成に役立つ一助となれば幸いです。各機関の記事を、ぜひご一読ください。なお、この記事は掲載時点の情報が掲載されています。最新の情報は各機関にお尋ねください。
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山形大学日本語教員養成プログラムについて
山形大学は2025年5月に「登録実践研修機関」「登録日本語教員養成機関」として登録され、全学対象の「日本語教員養成プログラム」を同年度後期から1年生を対象に開始しています。
まず、山形県の状況について、少し説明します。山形県は、外国人散在地域で日本語教育資源に乏しい県です。文部科学省(2024)の調査結果によると、「日本語教育を主たる業務とする常勤の日本語教師」は7人で全国最下位注、ボランティアの割合は約71%で全国4位です。生活者としての外国人に対する日本語学習支援がボランティアに依存している実態がわかります。一方、労働者を中心とした外国人の増加、多様化、定住化が進行おり、在留外国人は10,535人(2024年末現在)で、対前年比増加率13%と、全国平均の10.5%を上回っています。こうした状況下、日本語教員を養成する県内唯一の機関として、量的・質的に日本語教育人材を充実させることは喫緊の課題です。
このプログラムで意図したことは、まず、「日本語教育の参照枠」の言語教育観、つまり「1 日本語学習者を社会的な存在として捉える」、「2 言語を使って「できること」に注目する」、「3 多様な日本語使用を尊重する」に則って教員養成をすることです。また、前述のように山形県は外国人散在地域で、学生が外国人と交流する機会も限定的ですから、留学生を含む外国人との接触・交流の機会を増やすことを意図しました。その経験を通して、自分の日本語を調整する力、自文化を相対化できる力、学習者の日本語・日本語学習を観察し分析・考察する力の育成を目指しました。このような目標を掲げる科目には、次のような内容の活動があります。
・日本人学生と留学生が、ディスカッションやプロジェクトワークをとおして交流・協働する。
・日本語初級レベルの授業に入り込み、ロールプレイや作文のモデル作成、学習者の発話や作文へのフィードバックを実践しながら学ぶ。
・学習者へのインタビュー音声をもとに、日本語使用場面、学習ニーズ、日本語の特徴を分析する。
・大学の日本語授業、地域の日本語教室に入り、教師あるいは学習者に焦点を当てて授業を観察しグループで分析する。
一方で、教室活動、教科書分析、教案作成等、理論を理解するだけでなく実践することに特化した演習も提供することで、知識・技能・態度を一体的に育成することを目指しています。
その結果として、質の保証された日本語教育を行うことのできる教員を輩出すること、その教育実践によって、外国人が自立した言語使用者となり、地域社会の発展に貢献できるようになること、教員の働きかけによって、日本人が外国人理解の重要性と対話の必要性を認め実践するようになることを目的としています。
参考
出入国在留管理庁「令和6年度末現在における在留外国人数について」
文化審議会国語分科会(2021)「日本語教育の参照枠 報告」
文部科学省(2024)「令和5年度報告 国内の日本語教育の概要」
山形大学「日本語教員養成プログラム」
https://www.yamagata-u.ac.jp/jp/faculty/promotion-of-international-exchange/01/nihongokyouin/
注 2025年11月1日発表の「令和6年度報告 国内の日本語教育の概要」では常勤の内訳が示されず単純な比較はできなくなっているが、合計数は変わらない。また、ボランティアへの依存率は76%に上昇している。
(山形大学学士課程基盤教育院 内海由美子)
授業「実践!多文化コミュニケーション」1
授業「実践!多文化コミュニケーション」2
